2025/08/14
高齢者施設は湿気や建物構造の影響でカビが発生しやすく、利用者の健康に深刻な影響を与えます。
【記事を読んで分かること】高齢者施設でのカビ発生原因、健康被害、効果的な予防と除去方法がわかります。
【記事を読むメリット】利用者の健康を守り、快適で衛生的な施設環境を維持するための実践的なノウハウが身につきます。
1. 高齢者施設でカビが発生しやすい理由
高齢者施設は、複数の居室や共有スペースを持つ大型建物であり、常時多くの人が生活しています。この環境は、温度や湿度が一定に保たれる一方で、換気が不十分になりやすく、カビの繁殖に適した条件が揃いやすい特徴があります。さらに、入居者の健康を守るための温暖な室温や加湿環境が、結果的に湿気の滞留を招く場合もあります。
1-1. 建物構造と湿度管理の課題
高齢者施設は気密性が高く、冬場の保温や冷房効率を上げる設計が多く採用されています。しかし、その分外気との空気交換が少なく、湿度が内部にこもりやすくなります。浴室や洗面所、厨房など水を多く使う場所も多いため、建物全体で湿気の発生源が点在します。特に地下や北向きの部屋、日当たりの悪い廊下は乾燥しにくく、カビの温床となりやすいです。湿度計を常設していない施設では、問題が進行するまで気づきにくいのも課題です。
1-2. 高齢者の生活習慣とカビ発生の関係
高齢者は低体温や脱水を防ぐため、室温を高めに設定する傾向があります。また、寒さや外気を避けるために窓を開けず、暖房や加湿器を長時間使用することが多いです。これにより室内湿度が上昇し、換気不足が重なるとカビが繁殖しやすくなります。さらに、寝具や衣類を室内に干す、濡れたタオルを長時間放置するなど、日常の小さな習慣も湿度を増加させる原因になります。施設全体で生活環境を見直さない限り、こうした要因は重なり合い、カビ発生リスクを高め続けます。
2. 高齢者がカビによって受ける健康被害
高齢者は加齢に伴い免疫機能や呼吸器系の働きが低下しており、カビの影響を受けやすい状態にあります。特に施設では長時間室内で過ごすため、カビの胞子や代謝物質を吸い込み続けるリスクが高く、健康被害は深刻化しやすくなります。ここでは、高齢者が受けやすい主な症状とその背景を解説します。
2-1. 呼吸器疾患やアレルギー症状のリスク
カビの胞子は空気中に漂い、吸い込むことで気道に入り込みます。これにより、咳や痰、鼻水、くしゃみといったアレルギー症状が引き起こされます。既に喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ高齢者では、症状が悪化しやすく、呼吸困難や夜間の咳の増加など生活の質を大きく下げることがあります。また、カビの一部はアレルギー性鼻炎や過敏性肺炎の原因にもなり、長期間の曝露は慢性化を招く危険があります。
2-2. 免疫力低下と感染症の重症化
高齢者は免疫反応が弱まっており、カビによる真菌感染症にかかるリスクが高まります。代表的なのが「アスペルギルス症」や「カンジダ症」で、これらは肺や皮膚だけでなく全身に広がることもあります。また、カビが産生する「マイコトキシン(カビ毒)」は免疫機能をさらに抑制し、細菌やウイルスによる二次感染の危険性を高めます。軽い症状でも放置すれば命に関わるケースもあるため、施設環境の管理と早期対応が不可欠です。
3. 高齢者施設におけるカビ予防の基本対策
高齢者施設でのカビ予防は、入居者の健康維持だけでなく、施設の衛生管理や建物の維持にも直結します。予防の基本は「湿度管理」「換気」「清掃」の3つをバランス良く行うことです。ここでは、施設で実践すべき環境改善のポイントを紹介します。
3-1. 換気・除湿による湿度コントロール
カビの発生を防ぐには、湿度を40〜60%に保つことが理想です。施設全体に湿度計を設置し、職員が定期的にチェックします。梅雨や夏場は除湿機を常時稼働させ、冬場でも加湿しすぎないよう注意が必要です。また、浴室や厨房など水蒸気が多く発生する場所では、利用後に換気扇を十分に回し、扉や窓を短時間開放して湿気を逃がします。空調設備に外気導入機能がある場合は、定期的に利用して空気の入れ替えを促します。
3-2. 日常清掃と防カビ資材の活用
カビはホコリや汚れを栄養源として増えるため、床や壁、天井の定期的な清掃が欠かせません。特に窓枠、家具裏、エアコン内部などの見えにくい場所も計画的に点検・清掃します。また、防カビ加工のカーテンや壁紙、吸湿シート、防湿マットなどの資材を活用すると、長期的な予防効果が期待できます。布製品は定期的に洗濯し、しっかり乾燥させてから使用することが重要です。
4. 職員が行うべきカビ対策のポイント
高齢者施設でのカビ予防は、設備や資材だけでなく、職員の日常的な運用と意識が重要です。現場のスタッフが適切に対応できれば、カビの発生を早期に発見し、被害の拡大を防ぐことができます。ここでは、職員が取り組むべき具体的なポイントを解説します。
4-1. 点検・記録・改善の運用体制
カビは発生から短期間で広がるため、定期的な点検が欠かせません。職員は巡回時に壁や天井の変色、異臭、結露の有無などを確認し、異常があればすぐに記録します。記録は日付・場所・状況を明確にし、施設全体で共有することで、再発や進行を防ぎやすくなります。また、同じ場所で繰り返しカビが出る場合は、原因を分析し、換気や構造改善など根本的な対策を検討することが必要です。
4-2. 利用者の健康状態と環境管理の連携
高齢者はカビによる健康被害を自覚しにくく、症状が出ても「年齢のせい」と思い込みがちです。そのため、咳や鼻水、皮膚トラブルなどの変化を見逃さず、環境要因との関連を考えることが重要です。特定の居室やエリアで同じ症状が出ている場合は、その場所のカビ汚染を疑い、早期に調査・対応します。医療スタッフや家族との連携も取り、健康面と環境面の両方から安全を確保する体制を整えることが求められます。
5. カビ発生時の安全な除去と再発防止策
高齢者施設でカビを発見した場合、まず重要なのは「安全かつ確実に除去すること」と「同じ場所で再び発生させないこと」です。誤った方法や不十分な対応は、胞子を拡散させ、利用者の健康被害を悪化させる恐れがあります。
5-1. 専門業者への依頼と作業手順
カビが広範囲に広がっている、または壁や天井内部・空調設備に侵入している場合は、専門業者への依頼が必須です。業者はHEPAフィルター付きの機材や防カビ剤を用い、作業中に胞子が拡散しないよう徹底管理します。作業手順としては、まず養生で作業範囲を隔離し、除去後に防カビコーティングを施すのが一般的です。作業中は入居者を別室に避難させ、健康リスクを最小限に抑えます。
5-2. 構造改善と長期的な予防計画
カビが発生した背景には、必ず湿度や換気の問題があります。再発防止には、発生箇所の構造改善(換気口の設置、断熱材の追加、防湿施工など)を行い、湿気のこもらない環境を作ることが必要です。また、日常的な湿度測定、防カビ剤の定期使用、清掃計画の見直しなど、長期的な予防策を施設の管理マニュアルに組み込みます。職員への定期研修を行うことで、全員が同じ意識と方法でカビ対策に取り組める体制を整えられます。
一般社団法人 微生物対策協会について
一般社団法人微生物対策協会は、「カビの検査と対策」を主な活動の柱とする団体です。カビは健康被害や建物の劣化を引き起こす大きな原因ですが、その多くは目に見えない空気中に漂っており、放置すれば被害が拡大します。当協会は室内空気の状態を「見える化」することでリスクを把握し、健全な住環境を守ることを目的に設立されました。その活動は、平成27年施行の「アレルギー疾患対策基本法」に基づいています。この法律は、アレルギー疾患の予防や症状軽減のために生活環境や建築構造を改善する取り組みを推進しています。
当協会の目的は、環境微生物災害から住まいと生活環境を守ることです。室内や車内を漂う微生物問題について理解を深め、公衆衛生の向上、保健医療・福祉・環境保全の推進に寄与しています。具体的には、空気中の微生物や汚染物質の有無・濃度を測定し、その特性を分析することで、的確で実効性のある対策を講じています。調査では、建物内での微生物被害の多くがカビであり、一度落下したカビ菌は自然には死滅しにくいため、早期発見と確実な除去が欠かせません。
微生物対策協会は、見えるカビも見えないカビも正確に把握し、安心・安全な空間を提供するパートナーとして、今後も科学的根拠に基づく検査と対策を続けていきます。