一般社団法人
微生物対策協会

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2025/07/16   

カビの見えない脅威―高齢者施設が抱える空気環境の課題

高齢者施設でのカビ発生が、健康被害や施設運営に深刻な影響を及ぼしていることをご存知ですか?
【記事を読んで分かること】高齢者施設におけるカビの発生原因、健康リスク、問題事例、対策方法までが理解できます。
【記事を読むメリット】高齢者の安全と施設の信頼を守るために、今すぐ取り組むべきカビ対策の実践的知識が身につきます。

高齢者施設では、見えない場所でカビが発生しやすい環境が整ってしまっていることがあります。清掃が行き届いているように見えても、壁や天井、空調ダクト内部などにカビが広がっているケースも少なくありません。まずは、高齢者施設がなぜカビのリスクを抱えやすいのか、その構造的・環境的な要因を明らかにしていきます。

高齢者施設は、利用者の快適性と安全性を考慮して、気密性の高い構造になっていることが多く、室温を一定に保つよう設計されています。その結果、空気の循環が不十分になりやすく、湿気がこもりやすい環境が生まれます。また、入浴設備やトイレが各所に設置されているため、施設内全体が水分を多く含んだ空気にさらされやすいという特性があります。さらに、高齢者は寒さに敏感であるため、冬でも窓を開けずに暖房を使用する傾向が強く、換気が後回しになってしまうことも。これらの条件が重なることで、施設内の見えない場所でカビが繁殖しやすくなるのです。

高齢者施設では、入居者が快適に過ごせるように湿度をある程度保つように管理されていますが、この「やや高めの湿度」こそがカビの成長に適した条件となってしまうことがあります。また、施設内の多くの場所が共有空間であるため、一か所にカビが発生すると、空調や人の移動を通じて他の部屋やフロアに胞子が拡散しやすくなるリスクもあります。カビは目に見える場所だけでなく、壁の中や床下、カーテンやカーペットなどにも潜んでいる可能性があり、気づかぬうちに施設全体に広がっているケースも珍しくありません。このように、高齢者施設の構造や運営スタイルが、知らず知らずのうちにカビの温床を生み出してしまっているのです。

カビが発生している空間に長時間滞在することは、誰にとっても望ましくありませんが、とりわけ高齢者にとっては深刻な健康リスクとなります。年齢とともに免疫力や呼吸器の機能が低下するため、カビによる影響を受けやすく、症状が重症化するケースもあります。ここでは、カビが高齢者にどのような健康被害をもたらすかを見ていきましょう。

高齢者は加齢により免疫機能が衰えており、外部からの刺激や病原菌に対して防御力が低くなっています。そんな中でカビの胞子を日常的に吸い込むことで、肺や気管支に負担がかかり、慢性的な咳や痰、呼吸困難などの症状が出ることがあります。特に、アスペルギルス属などのカビは、免疫力の低下した人に対して感染を起こしやすく、「アスペルギルス症」と呼ばれる深刻な肺疾患を引き起こすこともあります。また、高齢者は既に他の基礎疾患(心疾患、糖尿病、腎臓病など)を抱えている場合が多く、カビによる感染や炎症がそれらの疾患を悪化させる可能性も否定できません。日々の生活空間にカビが存在していること自体が、健康を脅かす大きな要因になっているのです。

カビが原因で引き起こされるアレルギー症状には、アレルギー性鼻炎や気管支喘息、皮膚炎などがあります。高齢者施設では、くしゃみや鼻水が出る程度の軽度な症状でも、免疫機能が弱まっているため、慢性化しやすく、肺炎や呼吸不全に進行してしまう例も報告されています。また、寝たきりや体力の低下した高齢者にとっては、カビによる真菌感染症も大きな脅威です。皮膚にかゆみやただれが見られるだけでなく、爪や粘膜などに感染が広がることもあります。実際に、施設内でカビの発生が確認された後に、複数の入居者に同時多発的な咳や皮膚トラブルが起こったという事例もあります。カビが発生している環境下での生活が、見えないかたちで高齢者の健康をじわじわと蝕んでいくことは、決して見過ごせない問題なのです。

高齢者施設でカビの発生が確認されると、その影響は健康面だけにとどまらず、施設運営や信頼にも大きな打撃を与えることになります。特に入居者の家族や関係機関に知られると、施設としての信用を失うだけでなく、トラブルや指導に発展する恐れもあります。ここでは、実際に起こり得る問題を2つの視点からご紹介します。

カビの存在が明らかになると、まず問題となるのが入居者本人やそのご家族からの不安やクレームです。「健康に悪いのではないか」「ちゃんと清掃しているのか」「家に連れ戻すべきか」といった声が上がるのは自然な流れです。特に家族は入居者の健康管理を施設に委ねているため、カビの発生を「衛生管理の不備」と受け取ることが多く、施設の信頼を大きく損なう原因になります。一度でもトラブルが表面化すると、口コミやSNSを通じて情報が広まり、地域での評判や入居希望者の数に影響を及ぼすこともあります。信頼の回復には時間と労力が必要であり、予防的な対策を講じておくことが施設運営の安定につながります。

高齢者施設は、行政の管轄下で定期的に立ち入り検査や衛生監査が行われています。カビの発生が長期間放置されていた場合、保健所や都道府県の福祉担当部署から「衛生状態の不備」として指摘を受ける可能性があります。特に、カビによる健康被害が明らかになった場合には、指導・改善命令、最悪の場合は業務改善計画の提出や施設運営の制限にまで発展することもあります。また、厚生労働省の定める「感染症対策マニュアル」や「衛生管理指針」に反する事例と見なされれば、補助金や助成金の減額など、経営上の不利益を被ることにもつながります。こうしたリスクを回避するためには、日頃からの適切な環境管理と記録が不可欠です。

高齢者施設において、カビを「発生させない」「広げない」「早期に対処する」ためには、日々の管理体制にしっかりとした対策を組み込む必要があります。高齢者の健康と施設の信頼を守るために、施設がまず取り組むべき基本的なカビ対策を見ていきましょう。

多くの施設では目に見えるカビには気を配っていても、空気中に漂うカビ胞子への対策が後回しになりがちです。そこで有効なのが「空気の見える化」です。空気中のカビや雑菌の量を専用機器で測定し、環境が安全かどうかを数値で把握することで、見えないリスクに早く気づくことができます。たとえば、カビの濃度が基準を超えた場合には、発生源の特定と早急な対応が必要となります。こうした測定は定期的に行うことで、季節や湿度変化によるリスク増加も察知できます。空気の「可視化」は、職員の意識向上にもつながり、施設全体の衛生レベルを引き上げる第一歩となるのです。

カビの発生を抑えるには、「換気・湿度・清掃」の3つをバランスよく管理することが基本です。まず換気は、窓のない場所や浴室・トイレなどで特に重要です。機械換気設備がある場合も、フィルターの定期清掃と稼働状況の確認が欠かせません。次に湿度管理ですが、湿度が60%を超えるとカビが発生しやすくなるため、湿度計を設置して50%前後を保つことを目指しましょう。除湿器や空調のドライ機能も効果的です。最後に清掃ですが、目に見える汚れだけでなく、カーテン・エアコン内部・天井隅など“盲点”を意識した清掃が大切です。定期的にチェックリストを使って管理すると、清掃の漏れも防げます。施設全体の習慣として、この3つの柱を徹底することが、カビの根本的な予防につながります。

高齢者施設でのカビ問題を根本から解決するには、専門知識と技術を持った外部機関の力を借りることも重要です。自施設だけでの対応に限界を感じたら、第三者の視点での調査・アドバイスが役立ちます。ここでは、カビ専門機関を活用するメリットとその具体的な効果をご紹介します。

専門機関では、空気中のカビ胞子や微生物の濃度を測定し、施設環境のリスクを数値化する「空気の見える化」を行います。このような客観的データは、カビが“どこに・どれくらい”存在しているのかを正確に示してくれるため、職員が見逃していた発生源の特定にも役立ちます。また、施設利用者の健康に影響を及ぼす可能性のある菌種まで分析できるため、医療的な判断や環境改善の優先順位もつけやすくなります。さらに、報告書という形で記録を残すことにより、行政監査や家族への説明にも説得力を持たせることができ、施設としての信頼性を高める材料にもなります。

専門機関と連携することで、1回限りの調査にとどまらず、継続的なモニタリング体制を構築することが可能になります。たとえば、季節ごとの空気検査や、湿度・温度の自動記録システムの導入、カビ発生傾向の年間推移を把握するなど、計画的かつ継続的な衛生管理が実現します。また、職員へのカビ対策研修やマニュアル整備など、現場レベルの意識向上にもつながります。知識と技術を共有することで、全体の衛生意識が底上げされ、予防と早期発見が常に実行できる体制づくりが可能になります。結果として、入居者の健康を守り、施設の評判と運営の安定にもつながるのです。

一般社団法人微生物対策協会は、「カビの検査と対策」を中心に活動する専門機関です。近年、カビが引き起こす健康被害や建物の劣化が社会問題となる中で、当協会は室内空気中の微生物を“見える化”し、科学的かつ客観的な方法で問題の解決をサポートしています。

協会の設立は、平成27年に施行された「アレルギー疾患対策基本法」を背景としています。この法律では、アレルギーや感染症の予防、症状の軽減のために、生活環境や建築構造の改善が必要とされており、当協会もその実現に向けて活動を展開しています。

当協会の主な役割は、空気中に浮遊するカビや細菌といった微生物を検出・分析し、住まいや施設、車室内などに潜むリスクを可視化することです。測定結果に基づき、個別の対策提案や改善支援を行うことで、より安全で衛生的な環境づくりを目指しています。

特に、高齢者施設や病院、保育園といった、健康リスクの高い人が集まる場所において、カビ対策の重要性は年々高まっています。カビは空気中を漂って呼吸とともに体内へ入り込むため、免疫力の低い方には深刻な影響を及ぼしかねません。実際、建物内で確認される微生物被害の多くはカビが原因であり、その特性から、早期の把握と継続的なモニタリングが不可欠です。

当協会では、専門機器を用いた検査を通じて、目に見えないリスクを明らかにし、信頼性の高いデータと知見に基づく改善策をご提供しています。また、検査だけでなく、施設職員や管理者向けの教育や研修、マニュアル作成支援なども行い、現場全体の衛生意識向上を支援しています。

「目に見えない空気環境」を「目に見える安全」へと変える――。
それが、微生物対策協会の使命です。

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