一般社団法人
微生物対策協会

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2025/04/09   

神社・仏閣のカビ被害を防ぐには?私たちにもできる保存の心得

歴史ある神社や仏閣でも、カビによる劣化が深刻化していることをご存じですか?
【記事を読んで分かること】神社仏閣にカビが発生する原因や被害、実際の対策、見学者ができる工夫を紹介します。
【記事を読むメリット】大切な文化財を守るために必要な知識と、身近にできるサポート方法がわかります。

歴史ある神社や仏閣は、厳かな雰囲気と美しい木造建築が魅力ですが、実は「カビが発生しやすい環境」が整っている場所でもあります。多くの神社仏閣が自然と共存する立地にあることや、古来の建築様式に由来する構造的な理由など、いくつかの要因が重なってカビが繁殖しやすくなっているのです。

神社やお寺の多くは木をふんだんに使用した伝統的な建築様式で建てられています。木材は湿気を吸収しやすく、気温や湿度の変化に敏感な素材です。とくに日本の気候は四季がはっきりしており、梅雨や冬場の結露などで湿度が高まると、木材内部に水分がしみ込みやすくなります。
また、古い木造建築物では、現代のような断熱材や気密構造がないため、外気との温度差で結露が発生しやすく、これがカビの温床になってしまうのです。雨風にさらされる外壁や、日が差し込みにくい内部空間では乾燥が追いつかず、長期間湿気がこもる状態が続いてしまうことも多くあります。

神社仏閣の多くは、山や森に囲まれた静かな場所に建てられています。自然との調和を大切にする伝統的な思想の一方で、これらの立地条件がカビの発生を助長する要因にもなっています。
森林や沢沿いにある神社仏閣は湿度が高く、日照時間が短いため建物が乾きにくい環境です。また、地面からの湿気や落ち葉、苔などの自然要素が積もることで、さらに湿った空気が内部に入り込みやすくなります。屋根からの雨水の伝い方や排水の状態によっては、局所的に水分が溜まってしまい、知らぬ間にカビが繁殖する原因となります。
つまり、神社仏閣が持つ「自然に寄り添う造り」が、カビにとっても好都合な環境になっているのです。

神社や仏閣に発生するカビは、美観を損ねるだけでなく、建材や文化財そのものの価値を大きく損なう原因になります。特に木造建築や漆(うるし)塗り、金箔細工など、繊細で湿気に弱い素材が多く使われているため、カビによる影響は深刻です。ここでは、カビが及ぼす具体的な被害について解説します。

木造部分にカビが付着すると、表面に黒や白の斑点が現れ、美観を著しく損ないます。特に社殿の柱や梁、扉などは目につきやすい場所であるため、訪れた人に不快感を与えることも少なくありません。さらにカビが繰り返し発生すると、木材の繊維が徐々に弱くなり、腐朽(ふきゅう)が進行してしまう恐れもあります。
また、漆塗りや金箔を施した装飾部分では、カビが原因で表面が曇ったようになったり、変色したりするケースがあります。一度損傷すると修復が困難で、高額な費用がかかるだけでなく、本来の芸術的・歴史的価値が損なわれてしまう危険性もあるのです。

仏像や掛け軸、古文書など、神社仏閣に保管されている文化財もまた、湿気とカビに非常に弱い存在です。紙や布といった素材は湿度の影響を強く受け、カビが発生すると染みや穴あきの原因となり、資料としての価値が一気に低下してしまいます。
特に、これらの文化財は空調設備の整っていない本殿や宝物殿に保管されていることも多く、湿気の多い時期には注意が必要です。また、木箱に納められた仏具や書物なども、密閉状態であっても内部の湿度が高くなればカビのリスクは避けられません。こうしたカビの被害は、数年単位でじわじわと進行するため、気づいた時にはすでに深刻な状態になっていることもあるのです。

歴史と文化の象徴である神社や仏閣を、未来へと受け継いでいくためには、日常的なメンテナンスと継続的なカビ対策が欠かせません。現代では、伝統を守りながらも科学的なアプローチを取り入れた保存活動が進んでおり、多くの神社仏閣で実践されています。

近年、神社仏閣でも湿度管理の重要性が認識され、特に宝物殿や収蔵庫などの文化財を保管する空間では、温湿度計や除湿器の設置が進められています。外からの空気の流入を抑えつつ、内部の湿度を安定させるための「調湿材(ちょうしつざい)」を用いた工夫や、自然通風を促す伝統的な建築技法も再評価されています。
また、季節に応じて開閉する建具の調整や、定期的な戸の開放など、昔ながらの「風を通す」知恵も重要な対策です。電気設備に頼りきらず、自然との調和の中で湿気を逃がす方法は、神社仏閣ならではのカビ対策とも言えるでしょう。

文化財の保存においては、カビの種類や建物の材質、構造に応じた専門的な処置が求められます。そのため、保存処理や環境測定を専門に行う業者と連携した取り組みが行われています。たとえば、カビの胞子を空気中から採取し、顕微鏡で分析して被害の程度を把握する「環境微生物調査」などがその一例です。
また、文化庁や各自治体の支援を受けて、木材の防カビ処理、表面の洗浄・修復、保存状態の定期的モニタリングが行われている神社仏閣も増えています。地元住民の協力を得て清掃活動を継続したり、保存技術を学ぶ勉強会が開かれたりするケースもあり、「地域ぐるみ」で神聖な建築物を守る意識が広がっています。

神社や仏閣のカビ対策は、管理者や専門業者だけの仕事ではありません。実は、訪れる人々や地域の住民がちょっとした配慮をすることで、カビの発生リスクを減らし、貴重な文化財の保全に貢献できるのです。日々の参拝や観光の中で意識できることを知っておきましょう。

多くの人が訪れる神社仏閣では、湿気が意外なところから持ち込まれます。たとえば、雨の日に濡れた傘や靴、衣服をそのまま本堂や社殿に持ち込むと、室内の湿度が急激に上昇し、カビの発生につながることがあります。
参拝の際は、濡れた傘は屋外にある傘立てに置く、できるだけ濡れた衣類を乾かしてから屋内に入るといった配慮が望ましいです。また、靴を脱いで上がる場所では、湿った靴下による床材への水分移行にも注意しましょう。こうした小さな意識が、木造建築の保護に大きく貢献します。

地元住民にとって神社仏閣は信仰の場であると同時に、地域の象徴でもあります。近隣の清掃活動や定期的な換気・点検への参加、異変に気づいたときの早期報告など、地域ぐるみのサポートが文化財の長期保存には欠かせません。
最近では「文化財を守る市民団体」や「地域ボランティア」の活動も広がっており、子どもたちに文化財の大切さを伝える教育活動や、掃除体験会なども開催されています。こうした取り組みは、建物を物理的に守るだけでなく、次の世代へと「守る意識」そのものを引き継ぐためにも重要です。

神社や仏閣を守るカビ対策は、今や文化財保護の中でも特に重要なテーマとなっています。しかし、気候や環境の変化、建物の老朽化などの影響で、新たな課題も次々と浮かび上がっています。今後、どのような視点や技術が求められるのか、未来に向けた対策の方向性を考えてみましょう。

地球温暖化による気候変動の影響で、梅雨や台風の長期化、局地的な豪雨が増えています。これにより、神社仏閣がある地域では湿度が高まりやすくなり、従来よりも長い期間カビが繁殖しやすい状態が続くようになっています。特に、森に囲まれた立地や谷間に建つ建築物は、雨水の排水がうまくいかないと、湿気が建物の基礎に溜まりやすくなります。
今後は、これまで以上に気象データを活用し、地域ごとの気候特性に応じたカビ対策が必要になります。防カビ対策も、単なる清掃や除湿だけでなく、「環境の変化に対応できる柔軟なシステムづくり」が求められていくでしょう。

現在、一部の文化財保存施設では、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用した湿度管理やカビ検出の導入が始まっています。センサーを用いて温度・湿度の変化をリアルタイムで監視し、異常があれば管理者に自動通知するシステムは、すでに実運用されているケースもあります。
また、ドローンや小型ロボットを使って高所や狭い空間を点検したり、画像解析によってカビの初期発生を早期に検知する技術も開発が進められています。伝統と最先端の技術が融合することで、より効率的かつ持続的な保存活動が可能になるでしょう。
未来に向けては、こうしたテクノロジーと地域の力を組み合わせて、より多くの文化財をカビの脅威から守る体制を築いていくことが期待されています。

木造建築である神社や仏閣は、日本の歴史と精神文化を体現する大切な空間です。しかし、こうした建築物は湿気に弱く、カビによる劣化や健康被害、景観の損失といった問題に日々さらされています。そうした課題に専門的な視点から取り組んでいるのが、「一般社団法人 微生物対策協会」です。

当協会は「カビの検査と対策」を中心とした活動を通じて、カビによる影響から建物と人々の健康を守ることを目的に設立されました。空気中に存在する見えない微生物の状態を数値化し、室内環境を「見える化」することで、的確な対策を実現しています。とくに、カビは目に見えなくても空中に浮遊し続け、落下しても死滅しないという性質を持っており、建築物にとっては静かなる脅威と言える存在です。

その活動の法的な根拠となっているのが、平成27年に施行された「アレルギー疾患対策基本法」です。この法律では、アレルギー症状の予防や軽減を目的として、生活環境の改善や建築構造の見直しが重要であると明記されています。当協会はその理念に基づき、調査・検査を通じた公衆衛生の向上に貢献しています。

神社仏閣のように、文化的・歴史的に価値のある建築物においても、カビのリスク管理は欠かせません。微生物対策協会では、建築物の構造、環境、素材ごとに最適な調査と提案を行い、必要に応じて専門的な対策や再発防止の支援も行っています。

また、建築物だけではなく、車室内や施設などさまざまな生活環境にも対応しており、福祉・医療・保健分野との連携も強化しながら、健全で安全な暮らしを守る取り組みを続けています。私たちの使命は、見えないリスクを「知識と技術」で可視化し、一人ひとりが安心して暮らせる環境を提供することです。

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