2025/06/21
高齢者施設でのカビ発生が、入居者の健康を脅かす深刻な問題となっています。
【記事を読んで分かること】高齢者施設におけるカビの原因、健康被害、実際の事例、効果的な対策が分かります。
【記事を読むメリット】施設運営者・家族の両方にとって、カビ対策の重要性と具体的な方法が明確に理解できます。
1. 高齢者施設におけるカビ問題とは
高齢者施設は、清潔で快適な環境が求められる場所ですが、実はカビの温床になりやすいという問題を抱えています。湿度の高い浴室や換気の不十分な居室、長期滞在による使用頻度の偏りなどが、カビの発生を助長しています。ここでは、なぜ高齢者施設でカビが問題視されるのか、その背景と原因について詳しく解説します。
1-1. なぜ高齢者施設でカビが問題になるのか
高齢者施設は、入居者の年齢や体調を考慮して、室温を一定に保ち、湿度もある程度高めに設定されていることが一般的です。こうした環境は、カビにとって非常に好都合な条件なのです。特に高齢者は免疫力が低下しており、空気中に浮遊するカビ胞子を吸い込むことで、呼吸器系の疾患やアレルギー症状を引き起こすリスクが高くなります。
また、施設内ではカーテンや布団など湿気を含みやすい素材が多く使われており、換気が不十分な個室では壁や天井にカビが発生しやすくなります。職員が忙しく、全ての部屋を常に点検・清掃できないという現実も、カビの見逃しを生む原因の一つです。さらに、入居者本人が視覚や嗅覚の衰えによりカビの存在に気づきにくいという点も深刻です。
1-2. 見落とされがちな施設内のカビ発生原因
カビは浴室やキッチンなど「湿気の多い場所」にできるというイメージが一般的ですが、実際にはさまざまな場所に潜んでいます。たとえば、施設内の冷暖房のフィルターや換気扇、エアコン内部などは定期的に清掃されないと、カビが繁殖しやすくなります。また、空気が流れにくい家具の裏側や収納の奥、押し入れなどもカビの温床です。
特に注意すべきは、入居者の私物や持ち込んだ寝具・衣類です。これらにカビの胞子が付着している場合、室内に拡散してしまう可能性があります。職員が定期的にチェックできないこれらの個人所有物は、施設の衛生管理上の盲点とも言えるでしょう。湿度が高くなる梅雨時期や冬場の結露対策が不十分な施設では、目に見えない場所でカビが静かに広がっていきます。
2. カビが高齢者の健康に与える深刻な影響
カビは単なる見た目の問題ではなく、健康に深刻な悪影響を及ぼすことがあります。特に高齢者は免疫機能が低下しているため、カビによる健康被害のリスクが大きくなります。ここでは、カビがどのような疾患を引き起こすのか、そしてその影響が高齢者にどれほど重大なのかを詳しく解説します。
2-1. 呼吸器疾患・アレルギー症状との関係
カビの胞子は非常に小さく、空気中を漂っているため、知らず知らずのうちに吸い込んでしまうことがあります。これが肺や気道に入り込むことで、喘息(ぜんそく)や気管支炎、慢性の咳など呼吸器系のトラブルを引き起こします。特に高齢者は呼吸機能が弱っているケースが多く、これらの症状が慢性化・重症化しやすいのです。
また、カビはアレルギー反応の原因にもなります。目のかゆみ、くしゃみ、鼻水といった花粉症に似た症状から、皮膚のかゆみや湿疹などの皮膚症状を引き起こすこともあります。高齢者の場合、これらの不調が「加齢によるもの」と見なされて放置されることもあり、カビが原因であることに気づかないまま症状が悪化するという事例も少なくありません。
2-2. 認知機能や免疫力への悪影響の可能性
近年の研究では、カビの長期暴露が中枢神経系にも影響を与える可能性が示されています。具体的には、記憶力の低下や集中力の低下といった、認知機能への影響が指摘されており、高齢者にとっては認知症の進行を早めるリスクとしても注目されています。特に閉鎖的な室内空間で長時間カビにさらされることで、脳機能にも悪影響が出る可能性があるのです。
また、カビに含まれる「マイコトキシン」という有害な物質は、免疫システムにもダメージを与えるとされています。これにより感染症にかかりやすくなったり、既存の持病が悪化したりするリスクが高まります。高齢者はもともと免疫力が弱まっているため、こうした二次的な健康被害が命にかかわる重篤な問題へと発展することもあるのです。
3. 実際にあった高齢者施設でのカビ被害事例
高齢者施設におけるカビ問題は、現場で実際に深刻なトラブルを引き起こしています。施設の衛生管理が行き届かず、カビが蔓延して入居者の健康を損なうケースは決して珍しくありません。ここでは実際の被害事例を通じて、見過ごされたカビ問題がどのような結果を招くのかを具体的に紹介します。
3-1. カビ放置による集団感染とその経緯
ある地方の特別養護老人ホームでは、入居者の間で同時多発的に呼吸器疾患の症状が現れたことをきっかけに、施設内のカビ汚染が明るみに出ました。入居者の中には、高熱や咳が長引く人が続出し、中には入院を余儀なくされたケースもありました。当初は風邪やインフルエンザが疑われましたが、専門機関による調査の結果、共用浴室や居室の壁、さらには空調設備の内部にまでカビが広がっていたことが判明しました。
原因の一つは、浴室の換気設備が老朽化しており、湿気がこもりやすい状態が続いていたこと。そしてもう一つは、清掃マニュアルが形式的で、実際には目に見える汚れしか取り除かれていなかった点です。この結果、入居者だけでなく職員も体調不良を訴える事態となり、地域保健所の介入と一時的な施設閉鎖にまで発展しました。
3-2. 家族や職員からのクレームと対応失敗
別のケースでは、家族からの指摘によって施設内のカビ問題が明るみに出た事例があります。面会に訪れた家族が「部屋がカビ臭い」「壁に黒いシミがある」と感じ、施設に調査を依頼したものの、当初は「清掃済みで問題ない」と軽くあしらわれました。しかし、その後入居者が体調を崩し、病院で「カビによるアレルギー性肺炎」と診断されたことで、問題は一気に拡大しました。
対応の遅れが施設への信頼を損ない、SNSなどで情報が拡散したことにより、施設の評判も大きく低下しました。この事例では、問題発覚後に専門業者による除カビ処理を実施しましたが、すでに複数の家族が入居者を転居させる判断を下し、経営的にも打撃を受ける結果となりました。日々の点検や記録の重要性、そして早期対応の必要性が改めて浮き彫りになった事例です。
4. カビ対策の基本と具体的な実践方法
高齢者施設でのカビ問題を未然に防ぐには、原因を正しく理解し、日常の中で実行できる対策を講じることが重要です。ただ清掃をするだけでは根本的な解決にはつながりません。ここでは、効果的なカビ対策を「日常管理」と「専門的アプローチ」に分けてご紹介します。
4-1. 日常清掃だけでは不十分な理由
多くの高齢者施設では、清掃スタッフが毎日施設内を掃除していますが、実はそれだけではカビの発生を完全に防ぐことはできません。というのも、通常の清掃は目に見える汚れを除去することが主な目的であり、カビのような微生物を取り除くには不十分なケースが多いからです。たとえば、壁紙の裏や天井裏、空調の内部など、カビが潜みやすい場所は日常の掃除ではほとんど手が届きません。
また、湿度の管理が適切でなければ、清掃後すぐに再びカビが発生してしまうこともあります。特に、浴室・トイレ・脱衣所・調理室などの水まわりは、どれだけきれいにしていても湿度が高ければカビが育ちやすくなります。日常清掃では限界があることを認識し、定期的な点検やメンテナンスを加えることが大切です。
4-2. 専門業者による検査・除去の重要性
本格的なカビ対策を行うには、カビの種類や発生源を正確に把握する必要があります。そのためには、専門業者による空気検査や表面検査を行い、カビの濃度や種類、広がり具合を「見える化」することが効果的です。特に施設内で体調不良者が多発している場合は、すぐに専門家の診断を受けるべきです。
除去に関しても、家庭用の洗剤や市販の除カビスプレーでは根本的な除去ができないケースがあります。カビの根は深く建材内部まで入り込んでいることがあり、表面を拭き取ってもすぐに再発してしまうからです。プロの業者は専用の薬剤や機器を使って、見えない場所に潜むカビも徹底的に除去し、再発防止のためのコーティング処理なども行ってくれます。
専門業者の力を借りることで、施設全体の衛生環境をより安全なものに保つことが可能となります。
5. 安心できる施設環境を整えるためにできること
カビ対策は一時的な対応で終わらせるのではなく、継続的な環境管理の中に組み込んでいくことが大切です。高齢者が安心して暮らせる施設環境を維持するために、具体的に取り組むべきポイントと、施設全体での意識改革についてご紹介します。
5-1. 定期的な空気検査と湿度管理のすすめ
カビの発生を抑えるためには、「湿度の管理」と「空気の質」を継続的にチェックする仕組みが必要です。理想的な湿度は40〜60%の範囲とされており、これを超えるとカビが繁殖しやすくなります。そこで、湿度計の設置と、加湿・除湿機器の活用が効果的です。梅雨や冬場の結露シーズンには、特に注意が必要です。
さらに、定期的な空気検査を導入することで、目に見えないカビ胞子の濃度を把握できます。空気検査では、施設内の空気をサンプリングして、浮遊している微生物の種類や濃度を科学的に測定します。この「見える化」により、問題が表面化する前に対策を講じることができ、健康被害の未然防止につながります。
5-2. カビ問題への施設全体での取り組み体制
カビ対策は、個人任せでは不十分です。施設全体としての意識改革とチーム体制が求められます。まずは、職員全員に対して「カビが健康被害につながる」という認識を共有することが第一歩です。そのうえで、清掃や点検のマニュアルを見直し、定期的なカビチェックのスケジュールを組み込むことが重要です。
また、家族との連携も欠かせません。面会時にカビのにおいや湿気の多さに気づいた場合、速やかに報告できるような相談窓口を設けることで、早期発見が可能になります。管理者は、必要に応じて外部の専門機関と連携し、施設の衛生水準を客観的に確認し続ける姿勢が求められます。こうした取り組みの積み重ねこそが、入居者とその家族に信頼される安心・安全な環境づくりにつながるのです。
一般社団法人微生物対策協会について
一般社団法人微生物対策協会は、「カビの検査と対策」に特化した専門機関として設立されました。私たちが生活する空間には、目に見えない微生物が数多く存在しており、中でもカビは健康や建物に深刻な影響を与えることがあります。特に高齢者や子ども、病気を抱える方にとっては、空気中のカビが体調を悪化させる原因となることもあるため、適切な管理が求められます。
当協会は、平成27年に施行された「アレルギー疾患対策基本法」に基づき、生活環境の改善と公衆衛生の向上を目的に活動を行っています。この法律では、アレルギー症状の予防や軽減を図るために、建築構造や住環境の改善が求められており、当協会もこの方針に沿って、カビ問題に取り組んでいます。
私たちの主な活動は、室内や車内の空気中に浮遊する微生物の調査・検査です。専用の機器を用いて空気中のカビや細菌の量を「見える化」し、それに基づいた対策を提案・実施します。特に住宅や高齢者施設、病院など、健康への配慮が求められる場所において、カビ被害の実態を正確に把握し、安全で快適な環境づくりをサポートしています。
近年は、建物の構造や断熱性の向上により、かえって通気性が悪くなり、カビが発生しやすい住環境が増えています。こうした背景から、当協会では「見えないカビ」と「見えるカビ」の両方に注目し、科学的なアプローチで被害の全容を明らかにし、再発を防ぐ対策を推進しています。
微生物対策協会は、保健・医療・福祉・環境保全の各分野と連携しながら、誰もが安心して暮らせる「健全な住環境」を実現するための支援を今後も続けてまいります。